【デジこれ01】電子辞書の進化を知ろう

デジタル辞書の現在とこれから」第1回は「電子辞書の進化を知ろう」“電卓から電子辞書へ”の話です。

※このブログ連載は、2022年7月の日本電子出版協会(JEPA)セミナー「デジタル辞書の現在とこれから」の内容を、(我ながら呆れるくらい駆け足でしたので)補足しながらまとめなおしたものです。


電卓+単語帳の時代

電子辞書の嚆矢と言われているのは、1979年11月にシャープが発売した「ポケット電訳機 IQ-3000」です。英和約2800語、和英約5000語を収録。液晶は16桁×1行で、日本語訳はカタカナ表示でした。

このIQ-3000に刺激されたのか、1980年代前半には、液晶やボタンなど共有部品の多い電卓メーカーが次々に類似商品を発売しています。

  • 1980年4月、キヤノンが「電子英単語 LA-1000」を発売。英和1320語、日本語訳2180語を収録。
  • 1981年3月、キヤノンが「電子漢字字典 CA-1000K」を発売。漢字996、熟語3712語を収録。業界初の増設メモリ対応。
  • 1981年10月、カシオ計算機が「電子英和辞典 TR-2000」を発売。英単語・熟語を約2000語収録。手帳サイズの電卓型。
  • 1984年4月、シャープが「音声電子辞書 IQ-600」を発売。英単語2126語、英熟語501語を収録。基本英単語961語を発音。

それまでの電子辞書は、データを格納するメモリの容量や、液晶の表示能力の限界などがあって、辞書というより単語帳といった方がよさそうなものでしたが、1980年代後半には少しずつその弱点を克服していきます。

  • 1987年3月、三洋電機が「IC辞書 電字林 PD-1」を発売。英和約3万5000語を収録。漢字仮名まじり表示に対応。

  • 1987年7月、セイコーインスツルが「カード英和 DF-310」を発売。英和約6000語、訳語約1万2000語を収録。厚さ4ミリの名刺サイズ。
  • 1988年10月、キヤノンが「ワードタンク ID-7000」を発売。英和、和英、国語、漢和の4コンテンツを収録。増設カード対応。

そしてついに1992年1月、書籍版辞書に収録されるテキストをそっくり丸ごと収録したフルコンテンツ型と呼ばれる電子辞書が登場します。セイコー電子工業が発売した「IC.Dictionary TR-700」がそれで、研究社の『新英和・和英中辞典』をフルテキストで収録しています(英和約7万5000語、和英約3万6000語)。液晶表示も16文字×4行と“比較的”実用に耐えるものとなりました。同年11月には、岩波書店『広辞苑』収録モデル「TR-800」も発売されました。

クラムシェル型デザインへ

他メーカーも続々とフルコンテンツ収録モデルを商品化してきますが、ここでちょっと面白い現象が発生します。

キヤノンの「IDX-6500」(1994年/写真右上)とセイコーの「TR-7700」(1996年/写真右下)はクラムシェル型と呼ばれる貝のように液晶部とキーボード部を折りたためるデザインを採用しましたが、カシオの(エクスワード1号機)「XD-500」(1996年/写真左下)とシャープの「PW-5000」(1997年/写真左上)はタッチパネル液晶+スタイラスペンというデザインで挑んできました。同時期、シャープは「ザウルス」、カシオは「カシオペア」というPDAを販売していたので、その技術を転用したものとも思われます。

しかし、クラムシェル型には、①液晶保護に有効、②液晶大型化とキーボードを両立できる、といった利点があり、両社ともほどなくクラムシェル型に移行し、これが電子辞書のスタンダードデザインになりました(写真中央)。でも、タッチパネル液晶でフルコンテンツモデルに挑んだ両社が、現在では2強として生き残っています。面白いと思いませんか?

収録コンテンツ数競争

さて、フルコンテンツ収録モデルは、①メモリの容量増大とコストダウン、②収録対象コンテンツのデジタル化の進展、によって実現したわけですが、このふたつの条件はさらに好転し続け、21世紀に入ると各メーカー間で収録コンテンツ数競争が勃発します。

当初は、英和、和英、国語、漢字、それにプラスアルファあたりで落ち着いていたものが、「業界最多●コンテンツ収録!」といった商品アピールが熱を帯びてきます。

2000年 9月 シャープ、8コンテンツ

2001年 8月 カシオ、12コンテンツ 11月 シャープ、14コンテンツ

2002年 2月 ソニー、21コンテンツ 11月 カシオ、23コンテンツ

2003年 4月 シャープ、30コンテンツ 8月 カシオ、32コンテンツ

2004年 2月 シャープ、46コンテンツ 3月 カシオ、50コンテンツ 8月 シャープ、66コンテンツ 10月 カシオ、70コンテンツ 11月 セイコー、85コンテンツ

2005年  8月 カシオとシャープ、100コンテンツ

100コンテンツとなったところで一時休戦が実現しますが、その後、カシオとシャープの一騎打ちとなります。

2009年 6月 カシオ、120コンテンツ 9月 カシオ、130コンテンツ

2010年 8月 カシオ、140コンテンツ

2011年 カシオ、150コンテンツ

2012年 カシオ、170コンテンツ

2013年 カシオ、180コンテンツ

2015年 カシオ、200コンテンツ

2018年 シャープ、215コンテンツ

2019年 シャープ、280コンテンツ

コンテンツ数の増加は、他社類似商品との比較の動機付けにはなるものの、各コンテンツの入れ替え(増刷時修正などの更新)や検索&表示システムの抜本的更新(全検証が必要)などに影響が出たのではないかと危惧しています。

機能追加とターゲット開拓

コンテンツ数の増加と並行して、音声再生、カラー液晶採用、メモリカード対応など高機能化も進められました。また、医療関係者や学生など、ユーザ層を絞り込んだコンテンツ・パッケージのモデル展開も行われています。

2002年 2月 カシオとシャープ、高校生向けモデル  6月 シャープ、カラー液晶搭載/カシオ、英単語読み上げ機能

2003年 2月 各社、第二外国語搭載およびメモリカード対応/セイコーとキヤノンも高校生向けモデル参入  4月 セイコー、医療関係者向けモデル

2005年 2月 カシオ、中学生向けモデル 9月 シャープ、小学生向けモデル

2006年 9月 カシオ、医療関係者向けモデル参入

2006年 11月 シャープ、手書きパッド搭載 12月 同、ワンセグチューナー搭載

2008年 1月 カシオ、ツインタッチパネル搭載  8月 シャープ、「ブレーンライブラリー」開設

2010年 1月 シャープ、動画コンテンツ収録モデル

2012年 1月 カシオ、スクロールパッド・ダブルカードスロット搭載

2013年 2月 セイコー、『世界大百科事典』収録モデル

2014年 2月 カシオ、発音聞き比べ機能 3月 小学校低学年向けモデル

2016年 2月 カシオ、『日本大百科全書』収録モデル

電子辞書の現在

このように電子辞書は、コンテンツ数増加、機能強化、ユーザ層開拓を積極的に推進しました。進学・就職のタイミングをターゲットにした新年度モデルの発売というビジネスモデルが功を奏して、近年右肩下がりではあるものの、他媒体とは一線を画したビジネスボリュームを維持しています。

※参考:一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会(JBMIA)モバイルシステム部会「電子辞書出荷実績推移(1996-2021)」https://mobile.jbmia.or.jp/market/densi-jisyo-1996-2021.pdf

近年はGIGAスクール構想に伴う学校市場の活性化に対応して、電子辞書でのノウハウやコンテンツラインナップを活かした、タブレットやパソコン対応のアプリへの展開も進められています。それでも、電子辞書“専用”端末である強みは、まだまだ活用・発展余地があるのでは、と考えます。


【デジこれ02】辞書引きの基本を理解しよう