「デジタル辞書の現在とこれから」第3回は「身近なデバイスを活用しよう」。“ケータイ辞書とスマホアプリ”の話です。
※このブログ連載は、2022年7月の日本電子出版協会(JEPA)セミナー「デジタル辞書の現在とこれから」の内容を、(我ながら呆れるくらい駆け足でしたので)補足しながらまとめなおしたものです。
ケータイ辞書
1999年2月、NTTドコモがiモード(携帯電話によるインターネット接続サービス)を開始し、スタート時点から三省堂の辞書を検索できるサービスが用意されました。無料で使える「国語」「英和」「和英」のベーシックな辞書と、月額50円で使える『大辞林』(+「類語」「歳時記」)という構成でした。
2001年4月には岩波書店『広辞苑』のiモードサービスがスタート、2005年にはビッグローブが全キャリアで大修館書店『ジーニアス英和辞典』『同和英辞典』の検索サービスを開始(iモードは2月、EZWebとVodafoneは6月)、と携帯電話での辞書検索が本格化していきます。
2006年から各社間の競争が激しくなります。以下、通信会社×機器メーカー×辞書提供出版社の組み合わせをピックアップしてみます(筆者が関係した範囲でのメモなので全てを網羅しているわけではありません)。
2006年
5月:ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズが「SO@Planet」「SonyEricsson@ez」で電子辞書サービス(小学館)を開始
6月:ドコモ×富士通(F902iS)×大修館書店
6月:ドコモ×三菱電機(D902iS)×大修館書店
11月:ドコモ×三菱電機(D903i)×大修館書店
2007年
2月:ドコモ×三菱電機(D703i)×大修館書店
2月:au×三洋電機(A5524SA/A5525SA)×大修館書店
6月:ドコモ×三菱電機(D904i)×大修館書店
6月:au×カシオ計算機(W52CA)×小学館
6月:au×日立製作所(W52H)×小学館
8月:au×カシオ計算機(W53CA)×大修館書店
8月:ドコモ×三菱電機(D704i)×大修館書店
10月:KDDIが「au one 辞書」のサービスを開始(小学館)
11月:ドコモ×三菱電機(D905i)×大修館書店
2008年
1月:ドコモ×三菱電機(D705i)×大修館書店
2月:au×三洋電機(W54SA)×大修館書店
4月:au×京セラ/SANYO(W61SA)×大修館書店
6月:ドコモ×シャープ(SH906i)×大修館書店
7月:シャープ、携帯電話向けスマートリンク辞書(ネット辞書)を開始
7月:ソフトバンク×シャープ(923SH)×大修館書店
7月:au×シャープ(W62SH)×大修館書店
7月:au×日立製作所(W62H)×小学館
7月:au×カシオ計算機(W62CA)×小学館
7月:au×京セラ/SANYO(W63SA)×大修館書店
11月:ドコモ×シャープ(SH-01A)×大修館書店
11月:ソフトバンク×シャープ(931SH/930SH)×大修館書店
11月:au×シャープ(W64SH)×大修館書店
11月:au×カシオ日立モバイルコミュニケーションズ(W63H/W63CA)×小学館
2009年
1月:au×日立(H001)×小学館
1月:au×カシオ(CA001)×小学館
1月:au×シャープ(SH001)×大修館書店&小学館
1月:ソフトバンク×シャープ(831SH)×大修館書店&小学館
5月:ソフトバンク×シャープ(933SHほか)×大修館書店&小学館
5月:au×シャープ(SH002ほか)×大修館書店&小学館
5月:au×日立(Mobile Hi-Vision CAM Wooo)×小学館
5月:au×カシオ(G’z One CA002)×小学館
10月:au×カシオ(CA003)×小学館
10月:au×シャープ(SH003/SH004)×大修館書店&小学館
10月:au×三洋電機(SA001)×大修館書店
11月:ソフトバンク×シャープ(940SHほか)×大修館書店&小学館
2010年
5月:ドコモ×東芝(T-01B)×大修館書店
5月:ドコモ×富士通(F-06B)×各社統合辞書
5月:au×京セラ(SA002)×大修館書店
5月:au×カシオ(CA005)×小学館
5月:au×ソニー(S003/S004)×旺文社
データ容量や通信コストの兼ね合いもあって、機器メーカーが手配して実機に内蔵するシンプルな辞書(ポケット辞書やモバイル用にダウンサイズした辞書)と、通信会社が手配する(通信費が発生する)フルサイズの辞書の2本立て、というのが主流になりました。
2008年のソフトバンク春モデルではすべての機種に[辞書]ボタンが装備され(スマートリンク辞書起動)、発表会で壇上に立った孫正義氏は「電子辞書を買う必要は無くなった」と語りました。携帯電話がインターネット端末へと進化していく過程での、デジタル辞書“機能”の大きな到達点でしたが、同年7月、そのソフトバンクがiPhone 3Gの取り扱いを開始し、風向きが大きく変わることになります。
スマホの普及とダウンロードアプリ
というわけで、iPhone登場です。7月11日のiPhone 3G発売、App Storeオープンと同時に物書堂が辞書アプリ「ウィズダム英和・和英辞典」を発売しました。11月には小学館が「デジタル大辞泉2009i」を、12月には物書堂が「大辞林」をリリースしています。iPhoneのほか、Androidも含めたスマートフォン(iPadのようなタブレットも含みます)対応の辞書アプリは、ユーザインタフェース設計の自由度と表現力の高さ、軽快な検索動作なども相まってユーザを増やしていきます。
下図はiPhoneが登場した2008年以降の辞書アプリのダウンロード数推移をグラフにしたものです。無料アプリは対象とせず、ユーザがアプリストアで(もしくはアプリ内課金で)対価を払ってダウンロードした実数をカウントしています。
2017年12月にはアップルが開発各社にアプリの単体リリースをやめて統合アプリに集約するよう“要請”、主要開発会社が1年前後の開発期間を設けて、順次「無料の統合検索アプリ+アプリ内課金による辞書コンテンツ追加」という仕組みにが移行するという事態が発生しました。
GIGAスクール
2019年、文部科学省が「GIGAスクール構想」をぶち上げました。国内すべての児童・生徒に、1人1台、コンピュータと高速ネットワークを整備することを目的とした取り組みです。コロナ禍による整備事業の前倒しもあり、2020年度で小中学校での環境整備が完了、2022年度から高等学校を対象とした整備が開始されています。
コンピュータ(タブレット)とネットワークの環境が整ったことで、デジタル教科書を中心としたデジタル教材の普及にも弾みがつきました。そのような中で教育現場での利用を想定したデジタル辞書パッケージの商品化も進みます。当初は電子辞書やスマホアプリ向けにデジタル化が完了していたコンテンツの組み合わせが多かったのですが、中高生向けで(一般辞典と比較して)学習辞典のニーズが高まる、小学生向け辞典の新たなデジタル化といった傾向が徐々に出てきました。
2015年3月、イーストがiPad向け学習辞書アプリ「DONGRI」の提供を開始。バージョンアップを重ね、現在ではネイティブアプリ版(Windows/iOS/Android)とWeb版を備え、マルチデバイスに対応。小学校、中学校、高等学校向けのコンテンツを用意。
2016年3月、セイコーソリューションズが、中高校生および大学生向けiPad用電子辞書アプリ「語句楽辞典」の提供を開始(後に「セイコー辞書アプリ」に名称変更)。2021年3月にはセイコークラウド辞書「GIGANTES」でマルチデバイスに対応。「セイコー辞書アプリ」は中学・高校生向けと大学生向けの2種、「GIGANTES」は高等学校向け。
2017年3月、シャープがタブレット向け統合型学習アプリケーション「Brain+」の提供を開始(iPad/WindowsPC)。現在はWeb版もあり、マルチデバイスに対応。中学・高校生向けと大学生向けの2種。
2021年4月、ネットアドバンスがインターネットサービス「ジャパンナレッジSchool」の提供を開始。中学・高校生向けとは思えないハイレベルのコンテンツを多数取り揃え。
2021年9月、カシオ計算機がICT学習アプリ「ClassPad.net」の提供を開始。高校生向けと大学生向けの2種。高精度な数学ツール、デジタルノート機能、授業支援機能など。